私の異文化体験談

控えめな私が見つけた異文化での自己表現

Tags: 海外移住, 異文化コミュニケーション, 価値観の変化, 自己表現, 人間関係

意見を言うことへの戸惑い

海外へ移住する前、私は比較的控えめな方でした。自分の意見を積極的に発言することに慣れておらず、特に大勢の前や、自分より経験のある方々との会話では、聞き役に回ることがほとんどでした。場の空気を読み、和を保つことを優先する日本の文化の中で育った私にとって、それはごく自然な態度だったように思います。

しかし、異文化環境に身を置いてしばらく経つと、その「控えめさ」が思わぬ形で試される場面に多く遭遇するようになりました。特に、仕事や学校でのグループワーク、あるいは友人たちとのカジュアルな会話においても、自分の考えや意見を言葉にすることが強く求められるのです。

「君はどう思うの?」「これについて何か意見はある?」

初めのうちは、こう問われるたびに少し戸惑いを覚えました。明確な答えがすぐに思い浮かばなかったり、自分の意見が他の人と違ったらどうしようと考えたりして、結局何も言えないことも少なくありませんでした。沈黙していると、「理解していないのか」「興味がないのか」と受け取られることもあり、コミュニケーションがそこで途切れてしまうのを実感しました。

沈黙が意味するもの

私が育った環境では、沈黙は必ずしも否定的なものではありませんでした。時には相手への配慮であったり、思慮深さの表れであったりすることもあります。しかし、異文化においては、特に特定の場面では、沈黙は異なる意味を持つことがあるのだと学びました。それは、「参加していない」「貢献する意思がない」あるいは「何も考えていない」といった否定的な解釈に繋がりうるのです。

あるプロジェクト会議での出来事です。皆が活発に意見を交わす中、私は議論の流れを追うのに精一杯で、発言のタイミングを見つけられずにいました。すると、ファシリテーターから直接、「〇〇さんはどう考えますか?何か懸念はありますか?」と名指しで質問されました。突然のことに、私はしどろもどろになりながら、当たり障りのない返答しかできませんでした。会議後、同僚から「もっと自分の考えをしっかり伝えた方がいい。君の意見も聞きたいんだ」と言われ、自分の態度が彼らにとって物足りなく映っていることを痛感しました。

この経験を通して、自分の「控えめであること」に対する価値観が揺らぎ始めました。これまで美徳とすら思っていた態度が、ここではコミュニケーションの障壁になり得るという事実に直面したのです。自分の考えを持つこと、そしてそれを表現することが、個人としての存在を認められ、関係性を築いていく上で不可欠であることを理解し始めました。

小さな一歩から始まった変化

この気づきから、私は少しずつ自分を変えていく努力を始めました。まずは、会議で一度は何か発言することを自分に課しました。完璧な意見である必要はない、まずは存在を示すこと、議論に参加する意思を示すことが大切だと考えるようにしました。簡単な質問をしたり、他の人の意見に賛成する意を示したり、ほんの短いコメントから始めました。

驚いたことに、小さな一歩を踏み出すたびに、周囲の反応が変わるのを感じました。「良い質問だね」「その視点はなかった」といった肯定的なフィードバックをもらうこともあり、それが自信に繋がりました。自分の意見が、たとえそれが皆と違っていても、真剣に聞いてもらえる体験は、私にとって大きな励みとなりました。

友人との会話でも、曖昧な相槌だけでなく、自分の好きなものや感じていることを言葉にするように意識しました。すると、会話がより深まり、相手も心を開いてくれるのを感じました。自己開示は、人間関係をより強固にする力があることを身をもって学びました。

多様な自己表現の形を受け入れる

この海外での経験を通じて、私は自己表現や意見表明に対する価値観が大きく変化しました。かつては、目立つことや人前で話すことに抵抗がありましたが、今では、自分の内にあるものを外へ出すことの重要性や、それがもたらす豊かな繋がりを知っています。

もちろん、今でも私は根っからのおしゃべりではなく、聞き役に回ることも多いです。しかし、それは「意見がない」からではなく、「聞くことを選んでいる」からです。状況に応じて、沈黙することも、発言することも、どちらも意味のある選択肢であると理解できるようになりました。

異文化で学んだのは、自己表現の方法は一つではないということです。率直に意見を述べることが尊重される場面もあれば、非言語的なサインや場の雰囲気を通して理解し合うコミュニケーションもあります。大切なのは、自分にとって心地よい表現方法を見つけつつも、異なる文化で育まれた表現の多様性を受け入れ、相手に伝わる形で自分の考えを伝える努力をすることなのだと思います。

この変化は、その後の私の人間関係やキャリアにおいて、非常に大きな財産となりました。自分の考えをより明確に伝えられるようになったことで、他者との間に信頼関係を築きやすくなり、新しい機会も開けていったように感じています。異文化での体験は、自分自身の中に眠っていた可能性に気づかせてくれる旅でもあるのだと、今改めて感じています。