私の異文化体験談

異文化の「成功」の形に触れて気づいたこと:私の中のキャリア観と幸せの価値観の変化

Tags: 海外移住, 価値観の変化, キャリア, 成功, 異文化理解

日本で育まれた「成功」のイメージ

私が日本で過ごした学生時代や社会人になりたての頃、自分の中で漠然と描いていた「成功」のイメージは、比較的画一的だったように思います。それは、良い大学を出て、名の知れた企業に入り、昇進を重ね、経済的に安定した生活を送ること。周りの大人たちの姿やメディアから受け取る情報によって、自然と形成されたものでした。自分自身の将来を考える際にも、このイメージが基準となり、そこから外れることに対して漠然とした不安を感じていた時期もありました。

海外への移住を決めたのも、もちろんキャリアを追求したいという思いが根底にはありましたが、同時に、日本とは異なる環境で自分を試してみたい、という少し抽象的な願望も含まれていました。しかし、異文化の地に足を踏み入れ、様々な背景を持つ人々と関わる中で、私の持つ「成功」という概念は、根底から揺さぶられることになったのです。

多様な「成功」の形との出会い

移住先で出会った人々は、驚くほど多様な価値観を持っていました。ある人は、物質的な豊かさよりも、家族や友人との時間を何よりも大切にし、収入は必要最低限で良いと考えていました。またある人は、自分の情熱を注げる仕事であれば、それが社会的な地位や収入に直結しなくても全く構わない、と目を輝かせて語っていました。

特に印象的だったのは、ある芸術家との出会いです。彼は有名なギャラリーで作品を発表するわけでもなく、裕福な暮らしをしているわけでもありませんでしたが、自分の創作活動に没頭し、その過程で得られる喜びや発見を何よりも価値あるものとしていました。彼の話を聞いていると、私の知っている「成功」とは全く異なる尺度がそこにあることを強く感じました。彼の放つ満ち足りた雰囲気は、私の抱いていた「成功=何かを達成し、手に入れること」という固定観念を静かに崩していくようでした。

自分の「成功」を問い直す

彼らとの交流を通して、私は自分自身に問いかけるようになりました。私が追い求めている「成功」は、本当に自分が心から望むものなのだろうか。それは、社会や周囲の期待に応えようとする中で身についた、借り物の価値観なのではないか。

これまでの私は、キャリアの階段を一段ずつ上がっていくこと、収入を増やすこと、安定した地位を築くことに価値を置いてきました。それはそれで大切なことですが、それだけが「成功」の全てではないことに気づかされたのです。自分の内側から湧き上がる興味や情熱、大切な人たちと分かち合う時間、心身の健康、そして何よりも、自分自身の成長や学びの過程そのものも、十分に価値のある「成功」と言えるのではないか。

異文化の多様な生き方に触れることで、私は「成功」という言葉が持つ定義が、いかに個人的で多様であるかを実感しました。それは、キャリアの選択肢を広げるだけでなく、「幸せ」とは何かという問いにも深く繋がっていきました。

価値観の変化、そしてこれから

この異文化での経験を経て、私の価値観は大きく変化しました。以前ほど、社会的な評価や地位に囚われることが少なくなったように感じます。もちろん、キャリアに対する意識がなくなったわけではありません。しかし、「成功」の尺度が多様になったことで、自分の内なる声に耳を澄ませ、自分にとって本当に意味のあること、心が満たされることを見つけることの重要性をより深く理解するようになりました。

海外移住は、私にとって単に働く場所や住む場所を変える以上の経験でした。それは、自分自身がこれまでの人生で無意識のうちに身につけてきた価値観や常識を客観的に見つめ直し、自分にとって本当に大切なものは何かを問い直す貴重な機会となりました。多様な「成功」の形があることを知った経験は、今後の人生において、より自分らしい選択をしていくための羅針盤となるでしょう。異文化に触れることは、外の世界を知るだけでなく、自分自身の内側を深く知ることにも繋がるのだと、改めて感じています。